・人間に殺されかけた猫

電子うさぎ

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私は、動物愛護館に暫く通っていたことがあります。

仕事ではなくて、「保健所ってどういうところなのかな?」という疑問を抱きながら。

その動物愛護館は山の奥にありました。目立たない所に。

そこには、小さな子犬が沢山居ました。大人の犬も沢山居ました。鉄格子の中に。


その時期、私は看取った祖父を見送って、もう、人間には会いたくなかった時期でした。

暗くした室内には、数匹の大人になりかけの猫さんの姿もありました。

私がボーっとしていたら、後ろから声をかけられました。

その御婦人は小さなお饅頭の箱に生まれたばかりの仔猫12匹を、持っていました。

「可愛いですね」と声をかけたら、「処分しに来たのに、どこに申し込めばいいのかしら?」と。

私は人間と話したくなくなりました。


大切な人が死んで、腑抜けになっていた私は、上品なご婦人が箱の中の12匹の仔猫を一度に処分するために来たのだと思ったら、すっと血の気が引きました。

自分の子供、12人をここに持ってきて、「処分するから」という意味が分からないし、怖いし。


私は、ふと気が付きました。
「動物愛護館」は、「動物殺処分場」だったのだと。

読み違えた瞬間に、こちらに視線を感じました。
でもここからは見えません。

視線を感じた場所に行きました。
コンクリートの影になっている所に、小さな箱が置いてあったので、私はそれを覗き込みました。

両掌に包み込めてしまう程の小さなキジトラの仔猫が私を見ていました。

私は、ステンレスのテーブルや何かでゴチャゴチャしている所にいる、そこの職員さんに「この子猫、どうしたんですか?」と聞きました。
また、殺されるのかな?と思いながら。

その職員さんは、「あ~、その子ね、宅配で送られてきちゃって、ミルクも上げてるんだけど飲まないし、ウンこもしないのよ」と、迷惑そうに言いました。

殺すつもりなんだ・・・

私は咄嗟に「この子猫は、ここにずっといる猫なのですか?」と聞きました。

職員さんは「このままいくと、そういう言う事になるけれど、生きられないと思う・・・」と。


でも、物凄い視線を、この箱の中の仔猫から受け取っている私は、職員さんの言っている事が理解できなかった。

ふと、「この子猫、私が持って行ったら困りますか?」と聞いてしまった。

仔猫は私の目を見ていた。強い眼差しで。

私は、猫だけは身近にいなくて、どうやって触ったらいいか分からなかったけれど、そっと持ち上げて、掌の中に入れてみた。

彼女は、私の服の中に潜り込んで離れようとしなかった。

「生きたい」

私は、職員さんに、仔猫と暮らすことにしたと伝えた。


仔猫用のミルク・トイレ用の砂・哺乳瓶を買った。仔猫が必要なものが分からないので、色々買った。

友人に頼んだら、猫用ケージと、猫用バスケットをくれた。

直ぐ後に、動物病院に連れて行った。

「生きられますか?」と聞いた。

「小さくても、歯も生えてる。3か月月位だよ」 そうですか・・・こんなに小さいのに、まだ、数週間という大きさ。

私は、育つ事が出来ない過酷な状況にそんな長い事ほぼ放置されていたのだという事を知らされて、気が引き締まった。

「どんな餌を挙げればいいですか?成長に合ってないほどの小さな体に優しい食事は、なんですか?。内臓が育っていないのではないでしょうか?」なんか必死だった。

獣医さんは、「仔猫用のミルクでいいよ。ただし、少しずつ、内臓が育ってくるまではそうしてね」と言ってくれた。


その時、私は仔猫の性別も知らなかった。

獣医さんは「あれ?この子、女の子かな?男の子かな?う~ん・・・多分・・・女の子だろうね」というのと「まだ分からないのかも」ときちんと伝えてくれた。

その後、「女の子だよ」としっかり教えてくれた。

動物の性別はとても大切で、成長や、内臓、行動、全てが違うから。


私がその猫さんに出会う前に、なぜかいつも頭から離れない名前があった。

「この名前、なんだろう?」って不思議だったけれど、気に入っていた。

その名前を、仔猫に付ける名前だと知ったのは、彼女に会った時だった。

「動物殺処分館」から引き取って、仔猫を入れた箱のままでいたら、箱から出てきてしまった。

私はそっと持ち上げて、手に包んで、膝の上に置いてみた。

猫さんは、深いため息をついてから、眠ってしまって、移動中ずっと私の掌の中にいた。


家に帰って「何も食べない・うんこもおしっこもしない」と言った職員さんの事は忘れていた。

私はできるだけ沢山の毛布を、ケージの周りまで敷き詰めて、トイレの容器に砂を入れた。

砂の音を聞いただけで、その猫さんは大量のウンチをした。

「偉いね」と私が猫さんに初めて言った。

トイレの使い方が分からなかったようなので、私が、砂を掻いて猫さんを座らせて、終わったら私が砂をかけてみた。

猫さんは、次からそうするようになった。


3時間おきに、温かいミルクを作って、猫さんの口に持っていくと、哺乳瓶を両手でガシッと掴んで一気に飲んじゃう。1回50cc。

そうすると、私が座ってる場所まで来て、膝の中に入って、眠ってしまう。

あの殺処分場の職員さんは「何も食べてくれないから・・・(死ぬんじゃないかと思うよ)」と言っていた。付け加えて「私があげてもダメなんだから」と言いながら、シリンジに冷たいミルクを2ccほど猫さんの口の中に突き刺していた。


猫さんは、ミルクが欲しくなると「おなかすいた~」と言うので、ミルクを作り始めている間に、私の背中まで乗ってきてしまって「すぐですから、お待ちください」って、待ってくれないだろうなあ~と思いつつ・・・・

ミルクの哺乳瓶の口には、ねこさんの歯の穴が開いていた。


milk.jpg
(この写真の人は、私ではありません。
住んでいたボロアパートに来る人来る人、み~んな「ねえ、ミルクあげていい?」と言うので、その一枚です。男女関係なく面倒を見てくれました。猫さんの仁徳でしょうね・・・)





そして、私が食事をしていると、安全を考えてケージに入ってもらってた猫さんが「それを食べさせろ~!」というので、「そろそろ、ミルクに、柔らかい猫サン用のご飯を一緒に混ぜてみようかな」と思った。

温かくしたミルクに、半生の猫サン用ごはんをちょっと入れてみた。

ペロッと食べてしまって、こっちを向いて「まだないの?」と聞かれて、「ゆっくりね。少しずつ分けて食べていこうね。少しずつ沢山食べられるようにするからね」と、言ったら、ヨチヨチがまだ残っている感じで、家の中を走ったり、登ったり・・・

でも、眠い時や、引っ付いていたい時は、私の懐の中か、ポケットの中か、膝の上の毛布の中にくるまっていた。


私は、猫さんがやることを全部褒めた。

生きたいから私を見つけてくれた猫さんの願いを叶えたいと思った。

ニンゲンが殺そうとした。

でも、殺さない人間もいるという事もあるんだよ。って勝手に思ってた。


人間が殺そうとした。だから、そんな野蛮な自分勝手なニンゲンのシステムから、人間の「命を何とも思っていない」という気味の悪さと残虐性から、人間の私が、彼女を人間から守ろうと決めた。


私は、完全に「殺された側」に立った。

奇しくも、私も「ニンゲンに殺された」。でも、人間の蛇みたいな気味悪さから逃げて、生き延びた。

「彼女には、私がやってほしかった事をやってみる。人間にやられてつらく悲しくなったことは、やらない」と決めた。


お互い、頼る物が、無かった。

私がやったことは、「殺処分」を平気でやるシステムを作ったニンゲン、「カネにならなければ殺す」というシステムに、完全に背を向けた事になる。


「無駄な命なんだから殺処分」を決めた人たちは、殺処分のガス室に送られたら気持ちが分かるかもしれないけど、お金や権力を使って、逃げ続けている。

私は、「殺処分施設」が「生きるための施設」になるとは思えない。だって、そういう事を簡単に決められる機械みたいなニンゲンとは話が出来ないから。

私に出来る事は、私の命が続く限り、ニンゲンから猫さんを守る事だけだった。

私は、守りきるために、どうしても死んだり病気になるわけにはいかなかった。


獣医さんは「長く持たないかもしれない」という悲観的な事を一度も言わないでくれた。

獣医さんの所に行く度に、猫さんが生き延びるための、現実的なアドバイスをしてくれた。

ありがたかった。


20年以上、猫さんと暮らしていると、たまにニンゲンが「処分しろ」とか、訳の分からない事を言う事があった。

自分の子供を殺処分したらいいのになって思った。


ニンゲンから猫さんを守ることは、人間の気味悪さを猫さんには絶対に触れさせない事だった。

ニンゲンに何を言われても、跳ね返した。


私は、もしかしたら、たった一人の猫さんの命を守り切っただけなのかもしれない。

いつの間にか、私はニンゲンと距離を置いていた。



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最終更新日2018-11-26
Posted by電子うさぎ

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